調律師の耳と技術──「耳がいい」だけでは務まらない理由

   

「調律師って耳がいい人なんでしょ?」

そんなふうに思われることがよくあります。もちろん“耳の良さ”は大事な要素です。でも、実はそれだけでは調律師の仕事は務まりません。

「調律師に勝った!?」という出来事

もう15年ほど前、あるバーでピアノ調律をしていたときのこと。作業が終わりかけた頃、早く到着したお客さんがこう言いました。

「この音、ちょっと違わない?」

確かに、わずかに狂っていました。僕が調整すると、その方は満足げに、

「やった!調律師に勝った!」

と、ドヤ顔。もちろん、その瞬間の耳の鋭さでは負けたかもしれません。でも、調律師の仕事はそこからが本番なんです。

真の仕事は「正しい音を、長く保つこと」

ピアノのチューニングピンにはギアがありません。ギターやウクレレとは違い、1本80〜90kgもの張力で弦が引っ張られています。そのピンを動かすとき、微細な調整をしながら、1年後まで音が保てるように仕上げるのが調律師の腕の見せどころ。

そのためには、

  • ピンの力加減

  • 弦の張り

  • 木材の状態

など、耳だけではなく手の感覚や技術が重要になるのです。

調律師=ピアノ技術者

調律だけが仕事ではありません。私たちは、

  • ピアノ内部の動作を整える「整調」

  • 弦交換などの修理

  • 外装を美しく磨く作業

など、ピアノ全体のケアを担当しています。つまり、“耳がいい”というのは仕事のほんの一部。耳・手・技術、これらの総合力が調律師には求められます。

「ピアノ解体ショー」で知るピアノの中身

ピアノの仕組みは、普段なかなか見えないものです。そんな中身を楽しく学べる「ピアノ解体ショー」を、夏休み期間に開催しています。

  • 日時:8月21日(木)18:00〜

  • 会場:平瀬楽器藤原台センター

  • 対象:教室生徒さんはもちろん、外部の方・大人の方も歓迎!

私が講師を務め、ピアノの中身や仕組みをわかりやすく解説します。興味がある方はぜひご参加ください。


ピアノ調律は「耳の良さ」だけで語れる仕事ではありません。見えない技術と経験が音に宿ります。あなたのピアノが気持ちよく響く背景には、そんな職人の手仕事があるということを、少しだけ覚えていてもらえると嬉しいです。

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1973年兵庫県三田市生まれ。 三田市と神戸市北区で音楽教室と楽器販売を行う平瀬楽器の経営者。ピアノ調律師として一般のご家庭や施設・ホールなどをまわりつつ、店頭ではピアニカやエレキギター、カスタネット、大太鼓など、いろんな楽器の修理もやっちゃう楽器の専門家。 その他にコンサートや落語などのイベント企画、台本作成・進行などのディレクション業務、音響業務・コンサートの配信業務なども得意科目。 企画段階から本番の進行まで、イベント全体をまるっとマネジメントできるのが強み。イベント開催時の参謀役として置いておくときっとお役に立てるナイスガイです。 2013年からYouTube、2021年からはtiktokもスタート。2021年配信専門部門「HG動画配信サービス」を立ち上げる。2022年7月には兵庫県で初となる「音楽特化型放課後等デイサービス・さんかく」を開所した。

 - 調律のこと, MORNING NOTE